「こんな天気だから感傷的になっているだけだ」
「師匠は違うのか?」
やはりあの日は雨の日だった。
彼にしかわからない感傷で私を拾って、
そして。
「私は、お前を愛している」
きっと。たぶん。
私ははじめて男の唇にキスをした。
そのまま首筋に舌先を這わせる。
「…やめろ」
「どうして」
「馬鹿なことだ」
漸く私が本気だと悟ったのか、
幾分苛立ったように男が言う。
男の鼓動が少し早い。
私は少し笑って言った。
「お前に抱かれても、私は孕まない」
外の人間たちとは違いすぎるから、と。
何故か誇らしげに同胞たちは話していた。
検証したことはないが、おそらくそれは真実だ。
「…そういう問題じゃない」
悲しげに見えたのは気のせいか?
違う。
違うのだ。
その瞬間にはもうわかっていた。
「あの時のことを」
私自身が作為的に消し去った記憶のことを。
「私に思い出させまいとしているなら」
尚更。
「ちがう記憶に、ぜんぶ塗りかえてしまいたい」
数年前、男が出会った少女のからだには、
陵辱のあとがあったに違いない。
男の顔が苦痛に歪む。
「自分が強いと思っているのか」
行為によって蘇る記憶に耐えられる程に?
そうだといい、けれど恐らく違うだろう。
「思わない。だから尚更、お前の体温が欲しい」
今日が雨なら都合がいい。
私はまたキスをした。
男は今度こそ、拒まない。