28.失敗

注;お題「27.スケッチ」の続きになっております。


与えられた部屋に戻ると、クラピカはスケッチブックを抱えてへたへたと座り込んだ。
そして部屋の隅に目をやる。
「…どうして消えてくれないのだ…」
今朝この部屋を出る前と同じに、人型に膨らんでいる毛布に絶望する。



「要はコツさえつかめりゃいいんだよな」
自転車に乗るのと同じようなもんだと言いながら、易々と煙草を一本作り出して見せた。
本物らしく見えるが、彼の念によるまがい物だ。しかし当然、どうやったかなんて分からない。
「手に馴染んだものや普段見慣れてるものほど簡単だ」
俺はあんまり得意じゃないんだけどな、と言ってすぐに消してしまう。
「ま、あんまり鎖にこだわりすぎて行き詰るくらいなら、何でもいいから一度具現化してみるのもいいかもな」
目の下に隈を作っているクラピカに気楽な調子でそう告げると、またすやすやと寝息をたてはじめた。
ここ数日はクラピカが鎖に付きっ切りになっているから彼の負担は随分軽いようだが、
だからと言っていい加減すぎる。他の師範代もこうなんだろうか。
教師としては有能な人だとは思うのだが、たまに苛立ちを覚えることはある。
クラピカはすぐスケッチブックに向かい直したが、ふと思いついて視線を移動させた。
普段見慣れているもの、か。
既に数ヶ月、寝食を共にしている。
何千回もの手合わせの中で、彼の体型も触感も体で覚えた。
実際人間の形の念を操作する能力者もいると聞くし…
羨望と嫉妬の気持ちもあって、「少し悪戯する位いいじゃないか」という悪魔の囁きに思わず耳を傾けてしまったのだった。



クラピカはそっと毛布に近づくと「…起きろ」と声をかけた。
毛布をすべり落としながらむくりと起き上がったのは、師匠である。
ただし、クラピカの念による、まがいものの、師匠だ。
まさか数日で具現化させてしまうことになろうとは。
この「師匠」はクラピカが少しでも離れるとぐったりして動かなくなるが、
触れられるほどの距離になると思い通りに操ることが出来た。
緋の目の状態だと遠隔操作も可能のようで、かなり色々な作業ができる。
なのに「消えろ」の命令だけは何故か無効のようなのである(何度も試したのだ)。
なのでいつもは部屋の隅に毛布をかけておいてある。
幸い本物の師匠は普段、この部屋に無断で入ることはない。
…どうせ消えないのならば。

練習も兼ねて「彼」を操る練習でもしてみるか。





ふと昼寝から目を覚ました本物の師匠が、部屋の中を掃除する自分自身の姿を目撃してしまったのは、それから数日後のことだったらしい。