※ 微妙に50題にリンクしているけれど独立した話と思ってください。 ※
戸を開けるとそこに俺がいて、
弟子の部屋をきれいに掃除なんてしてたものだから。
当然、どういう事態だと弟子に詰め寄った。
「なんでもいいから何かを具現化してみろと言ったのは師匠だ」
「だからって、こりゃ」
「私だって好き好んでこんなモノを具現化したわけじゃない」
こんなものとはあんまりな言い草だが。
「ああもう、消しちまえ!人間の形の念なんて複雑なものを制御してたら修行になりゃしねえよ」
「難しいだろうな」
「あ?」
「できるものならとっくにやっている。朝からずっと試してはいるが、消えない。だから前向きに修行に活かすことにした」
なんでもないような表情で弟子は言う。
「…弟子に顎で使われてるみたいで気分が悪いじゃねーか」
「しかたがないだろう。あきらめろ」
俺は知らず拳を握り締めていたようだ。
夜。
「もうやることはないからこっちにいていいぞ」
あろうことかクラピカは部屋に入って行こうとした俺を「念の俺」と思ってぞんざいに(いつものことだが)話し掛けてきた。
俺は言われたとおり室内に入ると奴に近づき、来ていた服をいきなり剥いだ。
いい加減ムカついたのでからかってやることにしたのだ。
「?まだ寝ないから今は手伝わなくていいぞ」
…いつもやらせてんのかよ。
俺はいつも念の俺がそうであるように無表情を決め込んでどんどん脱がしてやった。
「おかしいな、制御がきかない。疲れているのだろう…かっ?」
首を捻るクラピカを俺はそのままベッドへ押し倒した。
「な、なんだ!?不具合か?」
耳元に唇を寄せて、そのまま下半身に手を伸ばす。
思ってもいないところに忍ばされてぎょっとしたように跳ね上がった。
ちょっと面白いように反応する。
「そ、そんなことはしなくてもいいっ!自分でなんとかするっ」
そうだよな、なんだかんだいいながらこいつもお年頃だ。
顔を真っ赤にして必死で身を捩る弟子を見て、俺は遂に我慢できなくなって笑い出してしまった。
「いや、悪かった、やりすぎた…」
「……は…?」
「『自分でなんとかする』って?さみしー青春だよなあ」
「し、師匠!」
ようやく呆然状態から戻った弟子に俺は枕を投げつけられ、早々に退散した。
…ちょっとやりすぎたかなと思いながら。
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鬱です。
まだ、部屋の片隅にあれがいる。
もう現れて数日経つのに。
消えないのは、きっと私がどこかで消したくないと望んでいるからだろう。
頭の中の冷静な自分がそう言った。そうなのだ。
「…師匠」
呼んでみる。
微笑のような表情を湛えて、あれはやってきた。
「私はお前に消えて欲しくないらしい。どうしてだと思う?」
すると『師匠』は私の顎を持ち上げて、唇をかさねてきた。
私は、私の膿んだ望みを思う。
潔癖な復讐者でありつづけることを強く意識しながらも、
一時だけ忘れてしまえないかとふと頭を過ぎる。
他意はなかったろうに、
さっき本物の師匠にされた悪戯で思い至ったことがある。
自分は蹂躙されることを望んでいるのではないかと。
「…やめろ」
口先だけだ。そういう命令は聞かない。
夜着の裾を捲ると、胸の突起を摘んで私に呻き声をあげさせた。
私はわずかにのこった理性の力でかれを振り払おうとした。
すると思いがけず強い力で、かれは私の左手を取り、後頭部に彼の手を乗せると、私の顔を枕に押し付けて抵抗できなくした。
不安定な姿勢からそんなふうにされて、浮いた腰のあたりに視線(そんなものがあればだが)を感じて私は赤くなった。
ひやりとした空気を肌に感じた。服を剥ぎ取られたのだ。
私はぞっとしたが、考え直す。
これにそんな複雑な機能は無いはずだ。
先ほど唇を割って入った舌からも、唾液がまとわりつくことは無かった。きっと、人形みたいなものなのだ。
では。
「…何をするつもりだ」
答えるわけもないが、聞かずにいられなかったのは、私自身がどこまで望んでいるのかをはっきりと自覚していなかったせいだ。
お前に、何ができる。
それは私の前に手を伸ばすと、「どうすれは一番いいかわかっている」とでも言うように慣れた手つきで擦り始めた。
嫌だ。こんなのは。
「や、やめろ」
こんなことを望んでいるなんて認めたくなかった。
どうした、振り払え。
かれがやめないのはどうしてだ?
それは。
私が。
自問自答の中堪えつづけていると、やがて胸の辺りを愛撫していたもう片方の手を外して後ろに宛がった。
「…!…そ…」
侵入してきた長い指は何かを探るように角度を変えてそこを弄る。
うろたえて身じろぐ私の動きが、結果的にその場所を捉える手助けをした。
「あ……っ!」
やがて探り当てた場所に、彼は強い刺激を与え始めると、同時に前への愛撫を再開する。
その動作に濡れた音が混じり始めると、私はその正体に思い至り惨めになる。
こんなにも容易く堕ちる。
口の端から唾液が糸のように零れる。
緩急をつけて巧みに弄るその手の動きに、私はもう限界を迎えていた。
「や…いやだ」
部屋の中を満たす卑猥な水音が私を汚してゆく。
さっきまで確かにあったはずの誇りも何もかも、紛い物であったかのように。
----隣には、ほんものの師匠がいる。
声を上げそうになって、必死で口をおさえた。彼に聞きとがめられでもしたら、
私は。
「…ふ、……うっ…」
目頭が熱くなり、睫を濡らす雫が視界を不明瞭にして、
頭が真っ白になる。
「ん、……っ!」
私は自身を解放すると、ぐったりと体を投げ出した。
それは放心しきっていた私のかわりに後始末までしてくれた。
私の上げてしまった声で隣の部屋の本物の師匠が起きてきていたらと正気に戻ってぞっとした。
「…消えてくれ」
いいんだ、お前はもう役目を果たした。
私のどうしようもない感情の処理をしてくれた。
「もう、いい」
そう言うと、目の前の『師匠』は霧散した。
後には何も残らない。
私は物音一つしない隣の部屋へ行った。
すうすうと気持ちよさそうに寝息をたてている師匠がいる。
「…すまない、師匠」
寝顔すら鷹揚に思える彼は、ぴくりとも動かない。
私は彼の枕もとに寄り添うとうつ伏せた。
涙を流す資格もない。